論文至上主義をゼロから考える〜その薬の効果はどのくらい?〜

猫好きの猫になりたい薬剤師です。どう医療に関わっていくか等々、薬剤師の一人である自身の感じたこと、考え方を投稿していきます。備忘録的な役割が大きいです。本ブログの記載内容については一切の責任を負えません。原著論文を参照して下さい。また情報の二次利用につきましては各々の責任でお願いいたします。記載内容に誤りがありましたら、ご指摘いただけますと幸いです。お問い合わせはこちらまで→【noir.van13@gmail.com】

非小細胞肺がんに対するニボルマブとドセタキセルの効果はどのくらい違いますか?(CheckMate 057)

www.ncbi.nlm.nih.gov

PMID: 26412456

 

Funding: Bristol-Myers Squibb

ClinicalTrials.gov number: NCT01673867(プロトコールの途中変更あり→  Appendix のプロトコールに記載あり計 3 回、優越性が認められたため早期中止)

 

 

⌘ 背景

非扁平上皮性の非小細胞肺癌(NSCLC)患者における効果的な選択肢は、初回化学療法後に病態が進行する患者に限定されている。

(参照→ EBMの手法による肺癌診療ガイドライン2015年版ガイドライン上の一次治療はプラチナ製剤やチロシンキナーゼ阻害薬が推奨されている。個々のエビデンスの吟味はできていない、というか時間かかりそうなので今回は勘弁)

 (セカンドラインにおける)ドセタキセル推奨は、最善のサポートケアではなく生存期間の延長に基づいて進行性 NSCLC の治療の第 2 選択として承認された。

 ドセタキセル(商品名:タキソール→微小管重合阻害薬)よりも良好な副作用プロファイルを有するペメトレキセド(商品名:アリムタ→ジヒドロ葉酸レダクターゼ阻害薬)およびエルロチニブ(商品名:タルセバ→上皮成長因子受容体 EGFR 阻害薬)のような比較的新しい薬剤はドセタキセルよりも劣っている、あるいはセカンドラインとして使用された場合に全生存期間においてドセタキセルに対し優位性を示せなかった(非劣性)。

 活性化T細胞上に発現する Programmed Death 1(PD-1)受容体は、腫瘍に発現したリガンド PD-L1 および PD-L2 が結合することにより、T細胞活性化がダウンレギュレーションされ、腫瘍は免疫逃避immune escape を促進する(つまり腫瘍細胞は免疫系による認識および排除を免れる)。
 完全ヒト IgG4 PD-1 免疫チェックポイント阻害抗体であるニボルマブ(商品名:オプジーボ)は、PD-1 媒介シグナル伝達を破壊し、T 細胞の抗腫瘍免疫を回復させる可能性がある(低下した抗腫瘍作用を回復させる)。
 第1相試験では、ニボルマブ単剤療法は耐久性のある抗腫瘍活性を示し、NSCLC サブタイプ全てにおいて生存率を向上させた(①Phase I study of single-agent anti-programmed death-1 (MDX-1106) in refractory solid tumors: safety, clinical activity, pharmacodynamics, and immun... - PubMed - NCBI、②Safety, activity, and immune correlates of anti-PD-1 antibody in cancer. - PubMed - NCBI、③Overall Survival and Long-Term Safety of Nivolumab (Anti-Programmed Death 1 Antibody, BMS-936558, ONO-4538) in Patients With Previously Treated Adv... - PubMed - NCBI)。

 重度前治療を受けている進行性非扁平上皮性 NSCLC 患者のうち、nivolumabは17.6% の反応率と関連しており、(投与後)1年で 42%、2年で 23%、3年で 16% の全生存率、および(投与後)1年で無増悪生存率 18%を示した(上記 ③ 文献結果)。
今回、進行性非扁平上皮性 NSCLC 患者において、ニボルマブドセタキセルを比較した無作為化オープンラベル国際共同第 Ⅲ 相試験の結果を報告する。

 

⌘ PECOT

P:非扁平上皮性 NSCLC で平均 62 歳(range: 21-85)の男女 582 人

(組み入れ基準→ECOG が 0 あるいは 1 の患者。十分な血液学的、肝臓および腎機能を有する;中枢神経系への転移を有する患者は、転移が治療され安定していれば組み入れた。治療開始前に得られた腫瘍組織は、バイオマーカー分析に使用するのみで患者の選択には使用されなかった。NSCLC の IIIB期または IV期放射線照射後の再発性非扁平上皮癌治療、外科的切除後の再発、進行期間中、以前にプラチナベースの 2 剤併用化学療法レジメンを 1 度だけ受けた患者。EGFR 変異または ALK 転座が既知の患者は、チロシンキナーゼ阻害剤療法の追加あるいは追加治療の選択、およびペメトレキセド、ベバシズマブ、またはエルロチニブへの治療切り替えは全ての患者に認められた

(除外基準→自己免疫疾患、症候性間質性肺疾患、全身性免疫抑制、チェックポイント標的薬剤を含む免疫刺激性抗腫瘍剤による前治療、およびドセタキセルの事前使用)

I :ニボルマブ 3 mg/kg、2 週間毎に投与(最大投与可能回数:約 26 回/年), i.v.

C:ドセタキセル 75 mg/m2、3 週間毎に投与(最大投与可能回数:約 17 回/年), i.v.

O:primary - 全生存期間

  secondary - 治験担当者が評価した奏効率、無増悪生存率、腫瘍 PD-L1 発現レベルによる有効性、および患者が報告したアウトカム

T:ランダム化比較試験(オープンラベル)

 

⌘ ランダム割付が隠蔽化されているか?(selection bias は無いか?)

以前に受けていた治療の影響が本試験結果に反映される可能性が高いため、以下 2 因子についての層別化を実施(この2因子については両群で同条件になるよう努めている)。Concealment については IVRS※ を採用しているため中央割付の可能性が高い。

→①以前の維持療法(Yes vs. No)および ②治療ライン(2ndライン vs. 3rdライン)

Randomization was stratified according to prior maintenance treatment (yes vs. no) and line of therapy (second line vs. third line).

 

⌘ マスキングされているか?(ブラインドか否か?)

オープンラベル open-label

→疾患からブラインドで行うことは困難であり、費用面からも不適と考えられる。また薬剤によって投与期間が異なる。リアルワールドで肺がん患者がどんな治療を受けるか知らないことはほぼ無いだろう。

→治療薬による副作用の早期発見および早期治療、個々の薬剤毎に副作用が異なるためにオープンで実施したとの記載あり。

 

⌘ プライマリーアウトカムは真か?

真(全生存期間)

 

⌘ Baseline は同等か?

同等(インバランスについても記載有り)

→The baseline characteristics were balanced between the treatment groups, with slight between-group imbalances in the percentages of male patients (二ボルマブ 52% vs. ドセタキセル 58%) and patients younger than 65 years of age. (←ここは 75歳未満の間違いかな?と思いましたが、 appendix に 65歳未満の組み入れ数の記載もありました。二ボルマブ:37-84歳、65歳以上-75歳未満 88人、65歳未満 184人 vs. ドセタキセル:21-85歳、同 112人、同 155人)

 

 ⌘ 交絡因子は網羅的に記載されているか?

記載されている(他にもあるかも

→大項目で 14 因子:年齢(中央値・範囲)、75歳以上の割合、性別(男性の割合)、人種(白人、アジア人、黒人、その他)、ECOG performance‑status score、肺がんステージ(ⅢB、Ⅳ)、喫煙歴(Current or former smoker、Never smoked、Unknown)、EGFR 変異有り、ALK 変異有り、KRAS 変異有り、以前の維持療法、治療ライン、前治療レジメン(白金ベース、ALK 阻害薬、EGFR チロシンキナーゼ阻害薬)、最良効果判定(完全あるいは部分奏効、安定、進行、不明あるいは報告無し)

 

⌘ ITT 解析されているか?

されている。本文に記載有り。part of intention-to-treat

 

⌘ 追跡率(脱落)はどのくらいか?脱落率は結果を覆す程か?

Table 3 以外はニボルマブ 292 例 vs. ドセタキセル 290 例で解析。なので Figure 1 の結果については、脱落無しの追跡率100% で問題ないと考えられます。

また以下の項目も追記いたします。

 

追跡率は両群ともに 90% を超えているため問題ないと判断した。 

  ◯ 二ボルマブ:追跡率 287/292 = 98.29%(脱落 5 例、1.71%)

  (脱落の内訳:試験薬とは無関係な有害事象 1 例、組入基準から逸脱 4 例)

  ◯ ドセタキセル:追跡率 268/290 =  92.41%(脱落 22 例、7.59%)

  (脱落の内訳:患者希望により治療中止 4 例、同意撤回 12 例、追跡不能 1 例、組入基準から逸脱 5 例)

 

⌘ サンプルサイズは充分か?

403 例の死亡時点で解析し優越性があれば中止。抗がん剤の場合、途中解析・優越性示唆による早期中止を想定しているため、推定必要例数に到達した時点で統計解析する(解析回数も予め設定している)。近年では The O’Brien–Fleming alpha-spending function を用いることが多いようである。途中解析を実施し最終解析にて P= 0.0408 未満で優越性が示されている(403 例死亡後に P= 0.047 未満であれば優越性有り)。

ドセタキセルの過去の試験結果から、262 例の死亡時点における有意差は両側 5%、power= 90、ハザード比= 0.72 と推定している。また 403 例の死亡が認められるであろう推定必要期間は約 25 ヶ月とのこと。本試験では中央値 12.2 ヶ月 時点において設定死亡数に達したものと考えられる。two-sided  5%  significance  level  sequential  test  procedure  with  one interim  analysis  after  262  deaths  (65%  of  total  deaths)  will  have  90%  power  if the  median  OS  times  in docetaxel and BMS-936558 are 8 and 11.1 months (HR=0.72).

 

⌘ 結果は?

Primary outcome である薬剤投与 1 年後の全生存期間については統計学的有意差有り。

 ◯追跡期間中央値:

 12.2 ヶ月(95% confidence interval [CI] 9.7-15.0)

f:id:noir-van13:20170111005622p:plain

(論文中の Figure 1 A より引用:legend は本文を参照)

 

 ◯全生存率:

 二ボルマブ 51% (95% CI 45-56) vs. ドセタキセル 39% (同 33-45)

 

 ◯ハザード比(Hazard ratio, HR):

 0.73(95% CI 0.59-0.89; P = 0.002)←本文では 96% になってる。間違い?

 

Secandary outcome 

 ◯治験担当者が評価した奏効率

 二ボルマブ 19%(95% CI, 15-24)vs. ドセタキセル 12%(95% CI, 9-17) P = 0.02

 (完全奏効:ニボルマブ 4 人 vs. ドセタキセル 1 人)

 

 ◯無増悪生存率・期間(投与 1 年後):

 二ボルマブ 19%(95% CI, 14-23)vs. ドセタキセル 8%(95% CI, 5-12)P = 0.02

 二ボルマブ 2.3 months(95% CI, 2.2-3.3)vs. ドセタキセル 4.2(95% CI, 3.5-4.9)

 HR = 0.92(95% CI, 0.77-1.1; P= 0.39)

 

 ◯腫瘍 PD-L1 発現レベルによる有効性(582 例中 455 例、78% がデータ有り):

 PD-L1 の発現度合いにより治療効果が異なっている。サプリのデータだが、個人的には重要であると捉え掲載した。これを踏まえていれば CheckMate-026 の fail は無かったのではなかろうか。

f:id:noir-van13:20170115221428p:plain

(論文中の Figure S5 より引用:legend は本文を参照)

 DOR:duration of response

 mosmonths

 

 ◯患者が報告したアウトカム:

 現在進行中との記載有り。Safety  was  assessed  by  an  evaluation  of  the  incidence  of clinical adverse events and laboratory variables, which  were  graded  according  to  the  National Cancer  Institute  Common  Terminology  Criteria for  Adverse  Events,  version  4.0.  Select  adverse events (those with a potential immunologic cause) were grouped according to prespecified categories. Analyses  of  patient-reported  outcomes  are  ongoing.

 

⌘ 考察

Figure 1 の結果から、二ボルマブは投与開始 9 ヶ月後よりドセタキセルとの差が開き始めており、12 ヶ月後には有意な差を持って 27% 死亡リスクを低下させた。しかし、癌の進行割合においてはドセタキセルの方が少なかった。

Primary outcome についてもう少し詳しく見ていくと、

 ◯相対リスク RR:51/39 = 1.308(生存率なので 1 より大きい方が良い)

 ◯相対リスク減少率 RRR:(39-51)/39 = 0.308(30.8%)

 ◯絶対リスク減少率 ARR:51-39 = 12%

 ◯治療必要数 NNT:1/0.12 = 8.333 = 8 人 9 人(ここは切り上げでした。御指摘ありがとうございます)

 ◯治療期待オッズ(N 先生の受売り):1.27

という結果であった。Figure 1A の結果から、末期 NSCLC 患者へのニボルマブ投与により(ドセタキセル投与と比べ)2.8 ヶ月間寿命が延長する。ただし 24 ヶ月後にはニボルマブ投与群で 9 人、ドセタキセル投与群で 5 人の生存に留まった。ちなみに有害事象はドセタキセルに比べて二ボルマブの方が少なかった。

f:id:noir-van13:20170115224807p:plain

(論文中の Table 3 より引用:legend は本文を参照)

 

最後にコスト面(2017年 1月時点における薬価ベース:窓口での負担額では無い)についてだが、仮に身長 164 cm、体重 60 kg の成人に両薬剤を投与した場合、

 ◯ニボルマブ(商品名:オプジーボ)※

  20mg/2mL→ 150,200円(75,100円/mL)

  100mg/10mL→ 729,899円(72,989円/mL)

 → 約 3500万円/年(2017年 2月には、この値より半額)

 ◯ドセタキセル(商品名:タキソール)

  20mg/mL:19,660円(ジェネリック医薬品 20mg/2mL:12,552円)

  80mg/4mL:67,304円(ジェネリック医薬品 80mg/8mL:43,164円)

 →約 178万円/年(ジェネリック医薬品:約 113万円)DuBois 式を使用 1.651m2

 

⌘ 結論

末期 NSCLC 患者を対象としているため、個人的にはコストベネフィットは低く、やはりニボルマブは(半額になったとしても)高価であるなという印象(セカンドラインであることも留意)。ここは患者背景(家族や友人も含)により異なるため、ニボルマブ使用の是非を問いたいわけではありません。また抗がん剤治療は 2 剤以上の併用療法が多く、今後ニボルマブも併用療法に組み込まれる可能性は充分あると思っています。ただし、その場合、薬価をさらに下げなければ皆保険制度は崩壊しかねない(すでに崩壊しかけているかも?)。薬価下げすぎると安くて効果が高い薬剤が使われなくなる(メーカーが販売中止する)ので困る。報酬制度の見直しが迫られているのではなかろうか。それにしても抗がん剤はよく分からん。勉強を続けます。

 →2017.2.5 追記:EBM-Tokyo のワークショップに参加してきました。論文結果の解釈や仮想症例に対するディスカッション等、非常に有意義な時間を過ごせました。そして EBM 実践においては論文の批判的吟味はそこそこで、多くの論文に触れることが重要であると感じました。なので、当面の目標は『 3 分くらい』で論文を読むことにします。

 

⌘ 追加情報※

① Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) performance-status score

Score 定義
0 全く問題なく活動できる。
発病前と同じ日常生活が制限なく行える。
1 肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は行うことができる。
例:軽い家事、事務作業
2 歩行可能で自分の身の回りのことはすべて可能だが作業はできない。
日中の50%以上はベッド外で過ごす。
3 限られた自分の身の回りのことしかできない。日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす。
4 全く動けない。
自分の身の回りのことは全くできない。
完全にベッドか椅子で過ごす。

日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG:Japan Clinical Oncology Group)より表を引用

原著:Common Toxicity Criteria, Version2.0 Publish Date April 30, 1999

https://ctep.cancer.gov/protocolDevelopment/electronic_applications/docs/ctcv20_4-30-992.pdf

 

② O' Brien-Fleming 法

抗がん剤のような、市場から効果と承認スピードを求められている薬剤の場合、最終評価項目の解析を研究終了前に行い、予想以上の効果が観測された場合には研究を早期終了し、承認申請手続きに移行することがある。

Pocock 法等、他の方法より解析総数に依存せず、推定最終解析時における有意水準が比較的 0.05 に近く設定される。これにより他の方法に比べ最終解析における有意差が出やすくなるという利点がある。しかし研究開始に近い時点の中間解析では(早期であれば早期であるほど)有意水準が厳しく設定されることになるため試験の早期終了は期待できない。これは試験早期の小規模なデータのみで新薬を有効とする妥当性を担保することは困難であることと、小規模データのみでは医師等、専門家からの試験結果に対する支持を得られにくい為である。

 

③ 喫煙歴

Current smoker:現在、毎日喫煙あるいは特定の頻度で数日は喫煙している

Former smoker:過去100本以上吸ったが、現在は吸っていない

Never smoked:現在吸っていない(過去吸った本数100本未満

 

④ 奏効率

腫瘍の直径が半分以下になる患者割合。RECIST では長径が 70% 以下と定義。
 
オプジーボの薬価について
2017 年 2 月より上記の半額となる予定。なぜか?これは保険適応疾患が急増したため、また海外に比べ高価であったことも一因としてあげられる。半額になっても、、、高い。
 
⑥ DuBois 式

A formula to estimate the approximate surface area if height and weight be known. 1916. - PubMed - NCBI

 

⑦ IVRS (Interactive Voice Response System)

中央コンピュータにて割付をコントロールし、組み入れ患者は電話にて治療薬等の指示を受ける。選択バイアスやブラインド保持等、様々な試験方法に用いられている。またコスト削減や、患者情報をリアルタイムに入手できる等のメリットもある。

→   似た方法に Interactive Web Response System (IWRS) があり、こちらは Web site で指示を受ける。

 

Proton Pump Inhibitor (PPI) の長期服用による精子への影響はありますか?(Fetil Steril 2016 Abstract only:charge)

www.ncbi.nlm.nih.gov

PMID:27743698

⌘ 背景

これまでに Proton Pump inhibitor(PPI)長期使用により "認知症"、"低 Mg 血症"、"骨粗鬆症・骨折"、"ビタミン B12 の欠乏"、"鉄の欠乏"、"間質性腎炎"、"市中肺炎"、"感染性腸炎" 等のリスク増加が報告されている。しかし生殖機能への影響は不明である。そこで、妊娠を計画しているカップルのうち proton pump inhibitor 長期服用中の若い男性における精液パラメータへの影響を後向きに検討した。

 

⌘ PECOT

P case:精液検査を受けた若年男性 2,473 人のうち総運動精子数 total motile sperm count(TMSC)100 万以下の 241 例

P control:マッチする TMSC 100万超の 714 例

E:PPI の暴露

C:(PPI の暴露無し)

O:PPI 暴露および投与量

T:コホート内症例対症研究 Nested case-control study に相当する(Abstract には "Case-control study of a population-based registry" の記載有り)

 

⌘ 症例を集める基準は?偏りはあるか?(選択/抽出バイアスはあるか?)

オランダの人口データベース the Integrated Primary Care Information database(IPCI)* に登録されている 1996〜2013 年のデータを使用しており問題ないと考えられる。

 

⌘ 対象を集める基準は?偏りはあるか?(選択/抽出バイアスはあるか?)

Abstract からは不明だが、データベースよりマッチングを行っているため問題ないと考えられる。

 

⌘ 交絡因子の検討は充分か?(思い出し/情報バイアス等の測定バイアスはあるか?)

Abstract からは【年齢】および【PPI 以外の薬剤使用状況】の 2 点については検討されていることがわかる。他の因子については不明だが、一般診療記録を統合したデータベースを用いている、またデータベースに記録されたデータを用いていることからバイアスはほぼ無いと考えられる。

 

⌘ 結果は?

年齢と PPI 以外の薬剤使用を調整した結果、精液検査前 6〜12 ヶ月間の PPI 使用と低 TMSC のリスクは関連があり、オッズ比 2.96(95% confidence interval 1.26〜6.97)。一方、検査前 6 ヶ月以内の PPI 使用は、低 TMSC との有意な関係は示されなかった(詳細な値は Abstract に記載なし)。

 

⌘ 考察

6ヶ月〜 12 ヶ月の PPI 使用が総精子活動数 TMSC を低下させる、つまり精子の質低下との可能性が示唆された。これは年齢及び PPI 以外の薬剤使用について調整された結果であった。やはり PPI の漫然な長期処方の益は少なそうである。出来れば PPI 投与量等についても知りたかった。手持ちの情報だけでは因果推論までは出来なかった。今後の報告を待ちたい。

原著論文は有料であるため、ここからは推測だが TMSC 1×10^6 を基準にしているのは、この値未満の患者に対し『医師の約 90% が顕微授精**を勧める』という結果に基づいていると考えられる(Total motile sperm count: a better indicator for the severity of male factor infertility than the WHO sperm classification system. - PubMed - NCBI

PMID: 25788568)。

 

 

⌘ 追加情報

① 海外のデータベースをリストアップしているサイト:INTERNATIONAL SOCIETY FOR PHARMACOEPIDEMIOLOGY (ISPE)

 

② IPCI*:オランダ全土から選ばれた診療記録タイプのデータ(代表例としては家庭医 General Practitioner:GP の電子カルテ情報)を基にした長期観察研究用のデータベース。 主な登録情報は【生年月日】、【性別】、【患者 ID】 、【症状・診断名】、【処方薬剤】、【療法】、【入退院】、【身体所見】、【臨床検査値】など。GP のコンピュータから匿名化され毎月ダウンロードされている。疫学研究や薬剤疫学研究に用いられている。 

 

 ③ 顕微授精**(ICSI:intracytoplasmic sperm injection):体外受精とは異なり、精子を直接卵子内に挿入する方法。他の治療法に比べ高価だが妊娠の可能性が高くなる。

低用量アスピリン服用患者においてテプレノン(防御因子増強薬)とラベプラゾール(PPI)は消化性潰瘍の再発を予防できますか?(PLANETARIUM study)

www.ncbi.nlm.nih.gov

(PMID: 25100080)

Declaration of funding interests: This study was funded by Eisai Co., Ltd., Tokyo, Japan. Writing support was provided by Eisai. Data management and analyses were undertaken by Eisai.

 

⌘ 背景

消化性潰瘍の主な原因は、Helicobacter pylori(ピロリ菌)感染と薬剤の使用(NSAIDs や低用量アスピリン)である。

日本や米国、EU 等では、ピロリ菌感染およびピロリ菌による潰瘍は減少傾向にある。一方、薬剤誘発性の潰瘍は増加している。

健康者における [13 C] - アミノピレン呼気試験によって評価されたシトクロム450(CYP)活性に対する PPI の影響において、(日本で使用されている)標準用量でオメプラゾールおよびランソプラゾールは CYP 活性を阻害するが、ラベプラゾールは阻害しないことを示した。この知見は、ラベプラゾールが CYP2C19 および CYP3A4 に対して比較的影響が少ないことを明らかにしただけでなく、以前に報告された事実と一致している。

本研究では低用量アスピリン使用患者に対するラベプラゾールの消化性潰瘍の再発予防効果を検討した。また熱ショックタンパク質 70(HSP70)を誘導し NSAID 誘発胃病変に対する防御作用を有すテプレノンをアクティブコントロールとした。

 

⌘ PICO

P: 低用量アスピリン(low-dose aspirin, LDA 81 or 100 mg/day) 服用中かつ内視鏡下で消化性潰瘍を認めた 472 人(日本人のみ)

I : ラベプラゾール 10 mg(morning) + プラセボタブレット(5 mg 用、morning)+プラセボカプセル(3 times a day)

 ラベプラゾール 5 mg(morning)+プラセボタブレット(10 mg 用、morning)+プラセボカプセル(3 times a day)

C: テプレノン 50 mg × 3 times a day + プラセボタブレット(5 mg 用、morning)+プラセボタブレット(10 mg 用、morning)

O: 24 週後の消化性潰瘍の再発(上部内視鏡検査)

 

⌘ 研究デザインは?ランダム化されているか?

ランダム化されている

randamized clinical trial

 

⌘ ランダム割付が隠蔽化されているか?(selection bias は無いか?)

 されていると判断した

dynamic allocation+multi centre

 

⌘ マスキングされているか?(ブラインドか否か?)

マスキングされている

double-blind+triple dummy

 

⌘ プライマリーアウトカムは真か?

真であると判断した

 

⌘ 交絡因子は網羅的に検討されているか?

されていると判断した

大項目で15個:性別、年齢、虚血状態(狭心症心筋梗塞、虚血性脳血管障害、CABG or PTCA、その他)、アスピリン用量、アスピリン服用期間、アスピリンを除く抗血栓薬の使用、H.ピロリ菌(陽性、陰性+潰瘍、陰性)、潰瘍(胃、十二指腸)、出血性潰瘍(胃、十二指腸)、前処置(PPI、H2Blocker、胃粘膜保護剤)、CYP2C19遺伝子型(PM、homoEM、heteroEM)、現喫煙、飲酒

 

⌘ Baseline は同等か?

同等

 

⌘ ITT 解析されているか?

以下 3 種類について検討

FAS(Full Analysis Set:一度も介入を受けていない患者のみ除外)→基本的にはこの結果

PPS(Per Prrotocol Setプロトコールに従った患者のみ解析)→カプラン・マイヤー法で使用 Table 2

SAS(Safety Analysis Set割付け通り試験を開始、何らかのデータが得られているすべての症例)→有害事象について使用

 

⌘ 追跡率(脱落)はどのくらいか?結果を覆す程か?

問題無し

ラベプラゾール 10 mg:142/158= 89.87%(10.13%)

ラベプラゾール 5 mg  :138/156= 88.46%(11.54%)

テプレノン 150 mg   :140/158= 88.61%(11.49%)

 

⌘ サンプルサイズは充分か?

計算されており、充分である

A sample size of 122 subjects per group was estimated to be required, with a two-sided significance level of a = 0.05 and a power of 90% (Fisher’s exact test). In addition, in consideration of the quantity of data that would be lost due to ineligible subjects and early discontinuations, etc., the number of subje cts required for randomisation was set at 150 per group, i.e. a total of 450 subjects in the three groups.

 

⌘ 結果は?

ラペプラゾール 10 mg および 5 mg 投与群の消化性潰瘍の再発率は、それぞれ 1.4% と 2.8% であり、いずれもテプレノン 150 mg 投与群(21.7%)より有意に低かった。

テプレノン 150 mg 投与群の 24 週間にわたる出血性潰瘍の累積発生率は 4.6% であったが、ラベプラゾール投与群(10 mg または 5 mg)においては出血性潰瘍は観察されなかった。

 

⌘ 考察

Funding の項に Eisai が満載過ぎるので気になるが、試験デザインはきちんとしていると考えられた(ちゃんと公表しているだけ良いか)。若干パラシュート試験のようにも思われるが、ラベプラゾールは日本で用いられている通常用量について検討されており、防御因子増強薬と比較し、PPI の効果を数値として捉える為に有用な結果であると考えられた。

低用量アスピリンには PPI の併用が有用であるとする結果であった。また倫理面で placebo 対象は難しいのだろうが気になる所。

基本的には FAS を用いているが、場合によっては PPS も使用しているので、いいとこ取りな印象もある。やはり Funding の影響か。

個人的には study name が好き。

 

 

構造主義科学論の冒険 著者:池田清彦

ある人に勧められて『構造主義科学論の冒険』を読んだ。

https://www.amazon.co.jp/構造主義科学論の冒険-講談社学術文庫-池田-清彦/dp/4061593323

 

以下、ただの個人的感想です。

 

・科学は観察可能なもの(見えるもの=現象)を不変の同一性(見えないもの=形式)によって言いあてようとするゲームであるP.15

→他の人にとっては何てこと無いただのコトバかもしれないが、私にとってはバットで頭を殴られたような、そんな衝撃的な出逢いだった。この一文に惹きつけられましたね。

 

ホン〇でっかTV にも出演していらっしゃる池田先生。失礼にも、ただの虫好きだと思ってました。

 

最近、脳を高速で掻き回されることが多く混乱と疲労でダウンしておりましたが、やっと歩き出せそうです(少し大げさに書きましたが風邪引いただけですw)。

 

私とは何者なのか?

何者なのかと悩む構造は何か?

薬剤師とは何か?

等々、またまだ考えたいことはありますが、ひとまず歩き出そうと思います。

 

別件ですが、引用と無断転載の線引きについて自分なりの解釈がまとまったので論文の批判的吟味も進めていきます。

ア・プリオリpriori と ア・ポステリオリposteriori とは?

カントの認識論で、よく用いられているコトバ。

 

私個人の解釈では、

ア・プリオリとは "経験によらず" もともと備わっている能力や個性。つまり経験から独立した認識。

→ 先天的、直感的なものという『コトバ』。

→ 分析的な判断は、その真偽において経験を必要としないためア・プリオリである(厳密に言えば、分析的判断を下すのに経験が必要)。

→ センス?

 

ア・ポステリオリとは "経験により" 得られた認識。ア・プリオリと対極に位置するとされる。

→ 後天的、総合的なものという『コトバ』。

→ 総合的な判断を下す為には、分析的判断に加え、経験に基づいた能力、知識が必要である(厳密に言えば、総合的判断を下すのに一部直感も必要)。

→ 努力?

 

"倫理的に人を殺しては行けない"とか、"モラルの観点からAよりBの方が良い"とか、"〇〇は当たり前だ" とかいう認識は、個々のアタマの中にあって、これをカタチ作るのは環境や経験であると考えている。

 

従ってアプリオリもアポステリオリも各々が独立するものではなく、個人の認識を構築する上でのアプローチの違いであり、認識構成に影響を与えあうコトバであると個人的には認識している。

 

 

以下は大辞泉よりの引用

⌘  ア‐プリオリ(〈ラテン〉a priori)

[名・形動]《より先なるものから、の意》中世スコラ哲学では、因果系列の原因あるいは原理から始める認識方法をいい、カント以後の近代認識論では、経験に依存せず、それに先立っていることをさす。 

 

⌘  ア‐ポステリオリ(〈ラテン〉a posteriori)

[名・形動]《より後なるものから、の意》中世スコラ哲学では、因果系列の結果あるいは帰結から原因や原理へ向かう認識方法をいい、近代認識論では、経験に基づくことをさす。

大動脈弁狭窄症患者における厳格な脂質管理は有益ですか?(SEAS trial)

ここ数年どんどん処方数が低下していると感じるエゼチミブ(商品名:ゼチーア)。

何が問題なのか?今更ですが初期のトライアルを取り上げます。

www.ncbi.nlm.nih.gov

論文タイトル:Intensive Lipid Lowering with Simvastatin and Ezetimibe in Aortic Stenosis(PMID: 18765433)

 

⌘ 背景

75 歳以上の 3〜5% は大動脈弁狭窄症を有し、冠動脈疾患や心筋梗塞による死亡リスク増加の一因であることが報告されている。重傷例では大動脈弁置換術しか治療法は無い。またスタチンによる大動脈弁狭窄症増悪に対する抑制効果は、(2008 年時点において)小規模の症例対象研究や RCT しか報告されておらず、効果も限定的であった。そこでスタチンの一つであるシンバスタチン(商品名:リポバス)とエゼチミブ併用による大動脈弁狭窄症増悪抑制効果を検証した。

 

⌘ PICO

P:心エコーで軽度~中等度の大動脈弁狭窄症と診断された 45~85 歳の男女、1873 例

(多施設:欧州 7 ヶ国、計 173 施設)

I :シンバスタチン 40mg+エゼチミブ 10mg(once daily intake)

C:プラセボ

O:複合アウトカム。

primary --- 心血管死、大動脈弁狭窄症関連イベント(大動脈弁置換術、うっ血性心不全)、非致死的心筋梗塞(MI)、入院を要するイベント(不安定狭心症心不全、CABG、PCI)、非出血性脳卒中脳梗塞

secondary --- 大動脈弁狭窄症イベント及び虚血性冠血管イベント

 

⌘ 研究デザインは?ランダム化されているか?

RCT

(一部 SAS trial という小規模かつ非公開試験からの組み入れ有り。SAS trial は MSD 社内データらしく閲覧できなかった)

 

⌘ ランダム割付が隠蔽化されているか?(selection bias は無いか?)

不明だが多施設で実施されており、中央割付であると推測できる。下記は試験デザインペーパーだが有料。

Design and baseline characteristics of the simvastatin and ezetimibe in aortic stenosis (SEAS) study. - PubMed - NCBI

 

⌘ マスキングされているか?(ブラインドか否か?)

Duble-blinded

 

⌘ プライマリーアウトカムは真か?

真だが注意点あり。複合アウトカムであり、バイアスがかかりやすい入院を要する項目がある。

 

⌘ 交絡因子は網羅的に検討されているか?

大項目で 15 因子について検討されているため問題無いと考えられる

年齢、性別、人種(白人99%)、血圧、喫煙、BMI、心房細動、房室ブロック、前立腺肥大症、腫瘍(良性/悪性/不特定)、治療薬(ACEi/ARB/CCB/BetaB/抗血小板薬/抗凝固薬/利尿薬/ジギタリス製剤)、検査値(血糖、Cre、eGFR、hs-CRP)、脂質、心エコー検査

 

⌘ Baseline は同等か?

同等である

 

⌘ ITT 解析されているか?

ITT 解析

 

⌘ 追跡期間は?

52.2 ヶ月

 

⌘ サンプルサイズは充分か?

計算されており問題ないと考えられる

The study had a power of 90% to detect a reduction of 22% in the relative risk of the primary outcome.

 

⌘ 結果

・Primary outcome (composit)

→ シンバスタチン+エゼチミブ群 333 例(35.3%) vs. プラセボ群 355 例(38.2%)で両群間に有意差なし:HR=0.96(95%CI:0.83~1.12、P=0.59)

 

・心血管死

→ 47 例(5.0%) vs. 56 例(6.0%)で有意差無し:HR=0.83(0.56~1.22、P=0.34)

 

・大動脈弁置換術

→ 267 例(28.3%) vs. 278 例(29.9%)で有意差無し:HR=1.00(0.84~1.18、P=0.97)


・大動脈弁狭窄症進展によるうっ血性心不全

→ 25 例(2.6%) vs. 23 例(2.5%)で有意差無し:HR=1.09(0.62~1.92、P=0.77)


・非致死的MI

→ 17 例(1.8%) vs. 26 例(2.8%)で有意差無し:HR=0.64(0.35~1.17、P=0.15)


・CABG

→ 69 例(7.3%) vs. 100 例(10.8%)で有意差あり:HR=0.68(0.50~0.93、P=0.02


PCI

→ 8 例(0.8%) vs. 17例(1.8%):HR=0.46で有意差無し(0.20~1.05、イベント数が少ない為 NA)


・不安定狭心症による入院

→ 5 例(0.5%) vs. 8 例(0.9%):HR=0.61で有意差無し(0.20~1.86、NA)


脳梗塞

→ 33 例(3.5%) vs. 29 例(3.1%):HR=1.12で有意差無し(0.68~1.85、P=0.65)

 

・脂質値の変化(LDL-C)

→ シンバスタチン+エゼチミブ群は、試験開始時 140mg/dL が 8 週間後には 53 mg/dL で 61.3% の低下。追跡期間全体では 53.8% の低下。一方、プラセボ群では追跡期間全体で 3.8% の低下。一応 P<0.001。

 

 

⌘ 結論および考察

エゼチミブの一次アウトカムに対する効果はかなり限定的

脂質低下作用及び CABG による入院の抑制に伴う虚血性冠血管イベント抑制は一応証明された。


シンバスタチン+エゼチミブ群では微妙な結果に加え、なんと癌と診断された患者数がプラセボ群に比べ有意に高かった(105 vs. 70、P=0.01)。

 

f:id:noir-van13:20161129013755p:plain

 (Figure 4. 本文より引用)

 

そこで当時進行中だった SMART および IMPROVE-IT、2 つの試験を途中解析し、約 20,000 人の患者で再検討(at the section of Discussion)。結果、プラセボ群と比較し癌発生率増加は認められなかったとのことだが、リスクベネフィットの観点からは楽観視できないだろう。そりゃ処方数減るよね。

 

そうそう、日本では患者数が少ないとされている家族性高コレステロール血症(FH)患者で大動脈弁狭窄症の発症が多いことが指摘されています。また日本での診断方法に問題があり、実際はもっと FH 患者数は多いのでは? との意見もあるようです(まぁ、PCSK9 等の新しい薬があるからエゼチミブの出番は無いかもだけど)。この真偽については次回検討します。

 

さらに SMART や IMPROVE-IT についても今後読んでみようと思います。

以上です。

かかりつけ薬剤師とは何ですか?

はじめに断っておくと、2016年4月1日からはじまった制度の説明ではありません。

私の内のコトバの定義を記します。

と、言いつつ制度内容にも触れます。

 

 

ある先生のコトバにかなり影響を受けている私、その私が考えている "かかりつけ薬剤師" とは、

『患者さんが困ったときに顔が浮かぶ薬剤師』

『なんでも相談しやすい薬剤師』

『処方箋がなくても話をしたい薬剤師』

です。

 

このような文字を羅列すると、患者に寄り添いすぎでは?という意見も出そうなものです。

私が言いたいのは『まず寄り添ったっていいじゃないか』という事です。

 

個々人が正しいと信じる医療行為あるいは介入は個々人の考えで、各々のアタマの中にあることです。

これは治療を受ける患者とは、そもそも切り離されていると考えた方が自身の考えを俯瞰するのに適していると私は考えます。

 

その上で長期的な薬の服薬サポートはもちろん、不定愁訴があれば処方提案もしますし、飲めない薬の管理もする。

まず寄り添わずして不定愁訴を聞くことができるのでしょうか?

寄り添いながらも俯瞰する。一旦は受け止め、その後に向き合ったって遅くはないのでは?と私は言いたい。

 

これは患者さんの困っている事に対してのソリューション、コンプライアンスアドヒアランスの向上が、医療あるいは医療行為を行う上で良いであろうと考えているアタマの中の私が先行しているからに他なりません。

 

そして今まで正しいと信じて行ってきたことが、今年度、2016年4月からは新たな制度として明文化されました。

 

最初は、この制度自体に疑問を抱いていました。

なぜ明文化されたのか?

なぜ今まで行ってきたことが調剤報酬として評価されるのか?

薬剤師は仕事をしてこなかったではないかという意見の根拠は何か?

薬局数を半分(あるいはそれ以下)にするという構造は何か?

 

そして、こうも考えるようになりました。

『この疑問は解消するのではなく、常に自分に問いかけながら仕事しよう』と。

 

2年に1度の診療報酬改定と調剤報酬改定、次回は2018年度、介護報酬改定との同時改定です。かかりつけ薬剤師に求められることがさらに増えるのかはわかりません。

本当は現場から声を発していき、それが制度として盛り込まれる形にしたいものです。

 

そうそう、制度がどう変わろうとも薬剤師としてやるべきことは変わらないのでは?という意見も時々見かけますが、ヒトはそんなに強くないよと言いたい。

ちょっとしたコトバに同調することもあれば、自身の考えを疑うこともある。つまり制度改定という変化に影響を受ける生き物なのです。

 

制度というルールの中で薬剤師一人一人が日々変わっていないのであれば、それは怠慢であり退化です。

現状維持はヒトが日々変わっているから出来るのであって、以前の私と今の私、未来の私の間に同一性はないのです。

 

自身のアタマの中の薬剤師像を追いかけながらも常に俯瞰し、正しいと信じる医療を実践するためにエビデンスを探し、目の前の患者に対し最適であろうと信じる医療は何かと自問自答していくのが、私の考える『かかりつけ薬剤師』です。

 

そして、この考えはEBMという行動指針によって実現可能ではないかな?と考えています。