論文至上主義をゼロから考える〜その薬の効果はどのくらい?〜

猫好きの猫になりたい薬剤師です。どう医療に関わっていくか等々、薬剤師の一人である自身の感じたこと、考え方を投稿していきます。備忘録的な役割が大きいです。本ブログの記載内容については一切の責任を負えません。原著論文を参照して下さい。また情報の二次利用につきましては各々の責任でお願いいたします。記載内容に誤りがありましたら、ご指摘いただけますと幸いです。

プラズマ乳酸菌(JCM5805株)は風邪やインフルエンザを予防できますか?

www.ncbi.nlm.nih.gov

PMID:26234407

UMIN 試験 ID:  UMIN000017274

 

⌘ 背景

Lactococcus lactis ssp.※ lactis JCM5805 は、マウスとヒト、両方の種において形質細胞様樹状細胞(plasmacytoid dendritic cellspDC)を活性化するレアな乳酸菌である。pDC の活性化は NK 細胞や B 細胞、キラー T 細胞、インターフェロン(IFN)を活性化し、ウイルス感染予防に繋がるのではないかと期待されている。本研究では、冬季のインフルエンザ様病態への影響を評価するために、無作為化プラセボ対照二重盲検試験を実施した。

 

⌘ PICOT

P:健康な日本人 214 例(30-59 歳の男女・地域:東京、神奈川、千葉、埼玉)

 組入基準:試験開始前の血液検査(WBCRBC、Hb、Ht、MCV、MCH、MCHC、PLT、T-cho、TG、LDL-cho、HDL-cho、BUN、UN、Cre、UA、AST=GOT、ALT=GPT、γ-GT、γ-GTP、LD、LDH、CPK、CK、GLU)およびアンケート結果を基に 297 人から 214 例を選択

 除外基準:免疫疾患患者、肝障害、腎障害、心臓病、貧血、不眠症、ミルクアレルギー、重度の花粉症、18 ヶ月以内にインフルエンザワクチン接種を受けている、日常的に乳酸菌あるいはヨーグルトを摂取している、妊娠中あるいは授乳中の女性、アルコール依存症その他医師が不適であると判断した場合

I :JCM5805株のみを用いた乳酸菌飲料 100 mL/day、10 週間連続摂取

C:乳酸菌を含まないプラセボ飲料 100 mL/day、10 週間連続摂取

O:Primary → 風邪・インフルエンザ様症状の発症記録

    Secondary → 摂取前(0週)、摂取後(10週)における血液免疫学的検査

T:ランダム化比較試験、予防効果、2013年1月〜3月のうち 10 週間

 

⌘ ランダム化されているか?

ランダム化されている

→ 年齢と性別を基にコンピューターにてランダム化

 

⌘ ランダム割付が隠蔽化されているか?(selection bias は無いか?)

中央割り付けであると判断した

 

⌘ マスキングされているか?(ブラインドか否か?)

されている double-blind

 

⌘ プライマリーアウトカムは真か?

予防という観点では真であると判断した

 

⌘ 交絡因子は網羅的に検討されているか?

(可能な範囲で)されていると判断した

 

⌘ Baseline は同等か?

同等(Table 1 より)

 

⌘ ITT 解析されているか?

本文から推測するに Full Analysis Set(FAS)であると考えられる

 

⌘ 追跡率(脱落)はどのくらいか?結果を覆す程か?

問題無し

 ◯プラセボ群:107/107 = 100.0%

 ◯介入群:106/107 = 99.1%

→ 被験者はクリニックを3回(試験組入時、ヨーグルト摂取開始前、摂取終了後)訪問する予定であったが、介入群のうち 1 名は訪問しなかった。

 

⌘ サンプルサイズは充分か?

試験結果から充分であると判断した(一応計算してるのかな)

→ 本文に「38 人の健常者で行ったパイロット試験の結果から、統計学的有意差 5% を得る為に必要なサンプルサイズを 80 と推計」しており、本試験では 100 例を設定している。

 

⌘ Setting

芝パレスクリニック(東京都)にて実施。1 つの施設のみ

→ インフルエンザの流行状況(東京都)の 2013年のデータから、流行ピーク期間をカバーできてはいるが、いかんせん 1 施設のみというのが気になるところ。

 

⌘ 結果は?

 ◯Primary outcome

  風邪・インフルエンザ様症状の発症数:

  プラセボ群 14 人 vs. 介入群 7 人(P = 0.127, χ2 test)

  各症状:

f:id:noir-van13:20170122005303p:plain

(本文 Table 3 より引用)

  → 咳および発熱については有意差あり。特に介入群において Mild〜Severe の発生数は少ない。喉の痛みおよび頭痛については有意差無し。喉の痛みについては介入群において Severe は少ない傾向にあるが、頭痛の Severe は多い傾向であった。

 

 ◯Secondary outcome

  血液免疫学的検査:

  → pDC の活性化マーカーである CD86 は、介入群で増加していたが、プラセボ群では変化が認められなかった。

  → インフルエンザ罹患後に増加するとされる IFN-α および IFN-stimulated gene(ISG)15 は、両群ともに増加していた。

 

 ◯副作用

  →両群ともに副作用は報告されなかった(→ですよね〜)

 

⌘ 考察

今回用いられた(小岩井乳業株式会社製の)JCM5805 株の乳酸菌飲料 100 mL 中には、コロニー形成単位 1000 億個が含まれる。これは市販飲料に含まれる菌数と同じであった(気になる方は共同販売しているキリンさんの商品を検索してみて下さい)。

プラセボ飲料 100 mL は、JCM5805 株の乳酸菌飲料と同じ栄養構成(67 kcal、タンパク質 3.2 g、脂質 0.7 g、炭水化物 12 g)とのこと。

 

もう少し primary outcome について解析すると、

 ◯相対リスク RR:{7 / (106)} / {14 / (107)} = 0.066 / 0.131 = 0.504  50.4%

 ◯相対リスク減少率 RRR:1-RR = 0.496  49.6%

 ◯絶対リスク減少率 ARR:0.131 - 0.066 = 0.065  6.5%

 ◯治療必要数 NNT:1 / ARR = 1 / 0.065 = 15.38  16

であった。

 

乳酸菌飲料を摂取するだけで風邪やインフルエンザ(A 型 H1N1 のみ検討)の罹患や、一部症状の重症化を抑えられるのは良いかもしれない。しかも今回は 10 日間の摂取のみ。期間が延びれば効果差はさらに大きくなったかもしれない(変わらないかもしれない)。

アウトカム減少に至った詳細なメカニズムは依然として不明であり、本結果のみで JCM5805 株の乳酸菌飲料pDC の活性化を引き起こし、(いわゆる)免疫力を高めるとは言えない。また一部の地域のみで認められた結果であり、アウトカム発生数も少なく絶対差は臨床的に意義があるのかと問われれば不明。

整腸作用もあわせて期待するなら摂取していても良いのでは?と思う。500 mL 入りペットボトルなら 100〜130 円くらい。実際、風邪ひいた時の咳と熱ツライもんね。

 

最後に気になったのが、謝辞の項に "Authors have no financial support or funding to report" との記載。しかし author にはキリン株式会社の社員が含まれているので、当然資金提供はキリン株式会社。このような記載方法は正しいのだろうか?汗

 

色々と書きましたが、私は毎日ヨーグルトを食べています。

 

 

⌘ 追加情報※

  ssp. → subspecies 亜種のこと。subsp. とも標記される。

  sp. → species 種小名のこと。

  spp. → sp. の複数形。