SGLT2阻害薬は 2型糖尿病患者の全死亡リスクを低下できますか?〜Systematic Review & Meta Analysis〜(Acta Diabetol 2017; Charge)
Effects of SGLT-2 inhibitors on mortality and cardiovascular events: a comprehensive meta-analysis of randomized controlled trials.
Monami M et al.
Acta Diabetol. 2017 Jan;54(1):19-36. doi: 10.1007/s00592-016-0892-7. Epub 2016 Aug 4.
www.ncbi.nlm.nih.govPMID: 27488726
プロトコールは以下のサイトを参照:
http://www.crd.york.ac.uk/PROSPERO/display_record.asp?ID=CRD42015029573.
⌘ 私的背景
2017年7月23日に開催された EBM-Tokyoに参加し、上記の Systematic Review & Meta Analysis論文を読んだ。その際、RevMan5という Meta-Analysisの実施および作図を行えるソフトを使用し、本論文を吟味している先生に出逢い、触発され、自身でも試したくなった。再度、批判的吟味しつつ結果をまとめたい。
⌘ 結論
本論文の結果は 2015年 NEJMに掲載された EMPA-REG OUTCOMEの結果に引っ張られているため新規性は無く有用性も低い。SGLT-2阻害薬の有効性については依然として controversial。
⌘ PICOT
P: 2型糖尿病
I : Sodium-Glucose coTransporter 2 inhibitor (SGLT-2阻害薬)の使用
C: プラセボあるいは SGLT-2阻害薬以外の薬剤
O: principal --- 全死亡、心血管死
T: 予防・治療、ランダム化比較試験のシステマティックレビュー&メタ解析
⌘ 使用した文献データベースは何か?
MEDLINE(Pubmed)、Food and Drug Administration(FDA)、European Medicines Agency(EMA)、www.clinicaltrials.gov Web site(clinicaltrials.gov)
⌘ 検索語は?
SGLT-2 inhibitor(dapagliflozin, empagliflozin, canagliflozin, ipragliflozin, ertugliflozin, luseogliflozin)
⌘ 研究の種類は?
Randamized Clinical Trial(RCT)
⌘ 参考文献まで調べたか?
不明(それっぽい記載はあるが明確な記載無し)
⌘ 個々の研究者に連絡を取ったか?
本文に記載はないが、恐らく取っていない(論文 Fig.1参照)
⌘ 出版されていない研究も探したか?
探した(FDA、EMA、clinicaltrials.gov)
⌘ 同じ研究が複数報告されているか?
本文中に記載はないが、論文 Fig.1より排除されていると判断した
⌘ 英語以外で書かれた論文も探したか?
英語のみ(プロトコール論文参照)
⌘ 研究は網羅的に集められたか?(出版バイアスは無いか?)
概ね集められていると判断した(本文ファンネルプロットを参照)
⌘ 集められた研究の評価はどのように行われたか?(各研究の評価は妥当か?)
2人の研究者が独立して行い、意見が分かれたときは3人目が判断した
⌘ 評価基準は明確か?(Risk of Biasの評価基準は?)
明確(Cochrane Collaboration's toolを使用)
⌘ 研究の異質性は検討されたか?
I2 統計量を用い検討されているが表現が古い。P値が 0.1より小さい(つまり異質性が低い)か否かで表現されている。近年では I2=50%のように表現されることが多い
⌘ 最終的に残った研究数は?
71件、うち統合されたのは 32件(zero event studyを除外)
⌘ 結果は統合されたか?
統合された。基本的には Rondam-effect modelを使用
⌘ 結果は?
・全死亡 MH-OR =0.70 [95%信頼区間 0.59〜0.83], p < 0.001
・心血管死 MH-OR =0.43 [0.36〜0.53], p < 0.001
・心筋梗塞 MH-OR =0.77 [0.63〜0.94], p < 0.01
・脳卒中 MH-OR =1.09 [0.86〜1.38], p = 0.50
Fig.1 全死亡のフォレストプロット(RevMan 5 | Cochrane Community
を使用し作成:計 32件の RCTを統合)
Fig.2 統合された 32件の RCTを用いたファンネルプロット(論文中には 71件の RCTの結果が記載されている)
⌘ コメント
Fig.1をみてみると Weight、つまり統合された結果に対する各研究の重み付けは Zinman (1が 77.1%と一番多い。この研究が EMPA-REG OUTCOMEである。つまり本論文の結果は、1つの大規模な RCTに引っ張られているだけであり、新規性は乏しい。
そして EMPA-REG OUTCOMEを取り除いた結果が以下である。
Fig.3 EMPA-REG OUTCOMEを取り除いた全死亡の統合結果(計 31件)
EMPA-REG OUTCOMEを統合してもしなくても異質性は 0%だが、取り除いたことでオッズ比が 1をまたいでしまった(OR =0.79, 95%CI 0.56〜1.11)。
1件の RCTの結果のみ(今回の場合は EMPA-REG OUTCOME trial)では薬剤効果を判定するのは難しいと考えられる。つまり現時点では SGLT-2阻害薬使用により全死亡のリスク低下は44%あるかもしれないし、逆にリスクを11%増やしてしまうかもしれない(SGLT-2阻害薬は使わないようにしましょう!とは言っていません。誰に使うかは非常に悩ましいところ)。
SGLT-2阻害薬の有効性については、新たな研究結果が待たれる(CANVAS programについては後日アップ予定です)。
また本論文の作成過程が "正確に" 行われたのかについては非常に疑問です。引用先の参考文献の番号が異なっていたり、参考文献には記載のない著者名が本文中に記されていたり、principal outcome以外の異質性が記されていなかったり、集めてきた研究の Risk of Bias評価が誤っていたり等々、てんこ盛りです。本論文の筆頭著者は、糖尿病研究ではかなり有名な人物のようですが、非常に残念でなりません。
ちなみに EMPA-REG OUTCOME trialに対する批判的吟味はこちらにありますので、よろしければ、ご参照ください。
CANVAS Programの批判的吟味についてはこちら ↓ ↓