論文至上主義をゼロから考える〜その薬の効果はどのくらい?〜

猫好きの猫になりたい薬剤師です。どう医療に関わっていくか等々、薬剤師の一人である自身の感じたこと、考え方を投稿していきます。備忘録的な役割が大きいです。本ブログの記載内容については一切の責任を負えません。原著論文を参照して下さい。また情報の二次利用につきましては各々の責任でお願いいたします。記載内容に誤りがありましたら、ご指摘いただけますと幸いです。

ハイリスク高血圧患者における血圧コントロールのファースト・ラインは利尿剤?(ALLHAT trial; JAMA 2002; Free)

Major Outcomes in High-Risk Hypertensive Patients Randomized to Angiotensin-Converting Enzyme Inhibitor or Calcium Channel Blocker vs DiureticThe Antihypertensive and Lipid-Lowering Treatment to Prevent Heart Attack Trial (ALLHAT)

 

The ALLHAT officers and coordinators for the ALLHAT collaborative Research Group.

JAMA. 2002 Dec 18;288(23):2981-97.

www.ncbi.nlm.nih.govPMID: 12479763

【財務開示Financial Disclosures】

→本文 pp.2994参照

 

⌘ 結論

ハイリスク高血圧患者における降圧療法のファーストラインは利尿薬。次いで Ca拮抗薬である。心血管アウトカムに対する利尿薬の効果は他剤と比較し誤差範囲とも捉えられるが僅かなアドバンテージがある。さらにコスパの良さが本結論を導くきっかけになったと考えられる。

 

 

⌘ 私的背景

高血圧ガイドライン2014では Ca拮抗薬、ACE-I/ARB、利尿薬での治療開始が推奨されている。一方、2009年には α遮断薬、2014年には β遮断薬が高血圧ガイドラインの推奨から外された。そのきっかけとなったのが ALLHAT trialおよび LIFE trialである。

 SNSで質問をいただいたので ALLHAT trialを改めて読んでみた。質問内容は以下 5点。

①患者Patientはハイリスクと捉えて良いか?

②プライマリ・アウトカムに差がないため、著者の結論は言い過ぎではないか?(利尿薬をファースト・ラインとすべきという主張)

③併存疾患のない高血圧患者のファースト・チョイスを利尿薬とするのは、2009年に発表されたコクランレビュー(CD001841、PMID: 19588327)の結果を受けてなのか?

④プライマリ・セーフティ・アウトカムで消化管出血gastrointestinal bleedingの項目があるのはなぜか?

⑤脱落率は 3%で良いか?

 

 本試験の目的は高血圧症に関連する冠動脈疾患coronary heart disease(CHD)あるいは心血管疾患ccardiovascular disease(CVD)イベントの発生率について、カルシウムチャネル拮抗薬calcium channel blocker(CCB、Ca拮抗薬)のアムロジピン(商品名:ノルバスクアムロジン)、アンギオテンシン変換酵素阻害薬angiotensin-converting enzyme inhibitor(ACE-I)のリシノプリル(商品名:ロンゲス、ゼストリル)、そしてサイアザイド系類似利尿薬thiazide-like diureticの chlorthalidoneを比較した。ハイリスク高血圧患者における血圧コントロールのファースト・チョイスは何か?という問いに対する答えを示した試験の 1つ。

 個人的には本試験結果を、血圧低値の高齢患者や起立性低血圧症を有す患者に対し処方介入を行う際に使用している。

 

 

⌘ 質問に対する私見

①患者Patientはハイリスクと捉えて良いか?

→ 患者背景(本文 Table.1参照)から、心血管疾患の既往が約50%、糖尿病の既往が約35%、そして CHDの既往が約20%ずつ含まれているためハイリスクと捉えても良いと思います。

 

②プライマリ・アウトカムに差がないため、著者の結論は言い過ぎではないか?(利尿薬をファースト・チョイスにすべきという主張)

→ 本文 Figure.3より主要効果については確かに差がありません。また脳卒中心不全(本文 Figure. 4参照)以外は同等であるため過大解釈ともとれますが、リスクやコスト、過去の臨床試験結果を含め総合的に判断すると、利尿薬が血圧コントロールにおいてファースト・チョイスに成り得ると個人的には思います。しかし御指摘の通り、本試験結果のみで利尿薬が一番良いというのは言い過ぎだと思います。この点については、著者も認識しており「3剤のうち降圧効果が最も強く、心血管イベント抑制効果や治療忍容性、そして低コストであるため初期治療に利尿薬を用いるべきである。しかし、これは循環器が正常な場合であり、異常な場合は Ca拮抗薬あるいは ACE-Iで治療を開始する必要がある」と主張しています。

 ちなみにですがガイドラインでは、利尿薬をファースト・チョイスとは明記しておらず、ファースト・ラインとして、4クラス横並びにしています(糖尿病や骨粗鬆症の場合は別ですが、これもあくまでガイドラインによる推奨です)。

 当時、本試験に用いられた薬剤の中で利尿薬は、いわゆる従来薬と呼ばれていました。一方、Ca拮抗薬や ACE-I、特に ARBは新薬と持て囃され、(特に従来薬の β遮断薬と比べて、という意味でですが)その降圧効果の高さから心血管疾患イベント抑制に期待が寄せられていました。しかし、その後の臨床試験結果から低用量利尿薬が、他剤と比較し有効であるとする試験結果が報告されはじめました。利尿薬は歴史が長いことから安全性情報が多く、かつ低用量ならば電解質異常等に伴う副作用が起こりづらく、さらには低コストであるため、他剤と比べてベネフィットが多いと考えられます(もちろん低カリウム血症には注意が必要です)。

 以上のことから、患者背景には注意する必要がありますが、クロルタリドンの安全性及び有効性は高く、私個人としては利尿薬、特にクロルタリドンを降圧療法の第一選択にしても良いと思います(日本ではクロルタリドン販売中止になりましたが)。

 

③併存疾患のない高血圧患者のファースト・チョイスを利尿薬とするのは、2009年に発表されたコクランレビュー(CD001841、PMID: 19588327)の結果を受けてなのか?

→ 上記でも少し触れましたが、あくまでガイドライン上では、4クラスは横並びだと認識しております。また治療選択は患者背景によりますので、何をもって第一選択とするのか?について各々が継続的に考えていくことが重要であると思います。個人的には日本人において低用量利尿薬をファースト・チョイスにしても良いと考えていますが、こちらのエビデンスについてはまた別の機会に。

ついでと言ってはなんですが、この文献(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25577154)を読んでみるのも良いかも。

 

④プライマリ・セーフティ・アウトカムで消化管出血gastrointestinal bleedingの項目があるのはなぜか?

→ 本文 pp.2989 に以下の記載があります。Ca拮抗薬、特にジヒドロピリジンDHP系の薬剤は「腫瘍リスク」、「消化管出血」、「全死亡」増加の可能性が過去の研究で示唆されているようです。従って本試験においても安全性の項目に入れたようです(結果としては 3群間で差がなかった)。以下、本文より一部抜粋。

A body of literature based on observational studies and secondary CHD prevention trials of short-acting CCBs has suggested that CCBs, especially DHP-CCBs, may increase the risk of cancer, gastrointestinal bleeding, and all-cause mortality.

 

⑤脱落率は 3%で良いか?

→ 良いと思います。一応、追跡率の項に記載します。

 

 

⌘ RobotReviewerによる Risk of Bias Table

 

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⌘ PICOT

P: 55歳以上かつ冠血管疾患リスクを 1つ以上有す患者 33,357人

I  : Ca拮抗薬 アムロジピン 2.5〜10 mg/日(n =9,048)

  ACE-I リシノプリル 10〜40 mg/日(n =9,054)

C: チアジド系類似利尿薬 chlorthalidone 12.5〜25mg/日(n =15,255)

O: primary --- 致死的 CHDあるいは非致死的心筋梗塞の併発

T : 平均追跡期間 4.9年、ランダム化比較試験、予防、北アメリカの 623施設

 

 

ランダム割り付けされているか?(観察者バイアスはないか?)

→ されている。ランダム化比較試験。

 

 

⌘ ブラインドされているか?(マスキングにより観察者バイアスは抑えられているか?

→ されている。Double-blind, active-control(個人的にはプラセボに対する効果も知りたいところ)。

 

 

⌘ 隠蔽化されているか?(選択バイアスはないか?)

 → されている。

The concealed randomization scheme was generated by computer, implemented at the clinical trials center, stratified by center and blocked in random block sizes of 5 or 9 to maintain balance. Participants (n = 33 357) were recruited at 623 centers in the United States, Canada, Puerto Rico, and the US Virgin Islands between February 1994 and January 1998. (The original reported number of 625 sites changed because 2 sites and their patients with poor documentation of informed consent were excluded.) All participants gave written informed consent, and all centers obtained institutional review board approval. Follow-up visits were at 1 month; 3, 6, 9, and 12 months; and every 4 months thereafter. The range of possible follow-up was 3 years 8 months to 8 years 1 month. The closeout phase began on October 1, 2001, and ended on March 31, 2002.

 

 

⌘ プライマリーアウトカムは真か?明確か?

 → 真だが、複合アウトカムに注意。

 

 

⌘ 交絡因子は網羅的に検討されているか?

 → 概ねされていると考えられる(本文 Table.1参照)

 

 

⌘ Baseline は同等か?

→ 群間での大きな偏りは無いと考えられる(本文 Table.1参照) 

 

 

⌘ ITT 解析されているか?

→ されている。

 

 

⌘ 追跡率(脱落)はどのくらいか?結果を覆す程か?

 → アムロジピン :脱落率 =2.75% --- 1-(15,255-339-80)/15,255

   リシノプリル :脱落率 =2.85% --- 1-(9,048-200-58)/9,048

   クロルタリドン:脱落率 =3.05% --- 1-(9,054-218-58)/9,054

 

 

⌘ サンプルサイズは充分か?

 → 充分。各群 8,500〜15,000例あれば良い。

ALLHAT was designed with a large sample size (9,000〜15,000 participants/intervention arm) and long follow-up (4-8 years).

In Formula (1), n0 and n 1 are the sample sizes in the diuretic and another AH arm, respectively, and p0 and p1 are the observed proportion of events in those arms. For the optimal allocation of patients, n0=40,000[%3/(3+%3)]=14,641 and n1=40,000[1/(3+%3)]=8,453. We will reject if the Z statistic exceeds the adjusted critical value c=2.37. If we denote the cumulative normal distribution function by Φ(x), power can be shown to be: Z=arcsin( pˆ0)arcsin( pˆ1). (1) (1/4)(1/ n0 +1/ n1 )

 

 

⌘ 結果は?

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(Figure.3:本文より引用)

→ 3群間で差はなかった。 つまり患者背景により、どの薬剤を使用しても良いということではないでしょうか。症例数からフォローアップ 5年以降の結果は信頼性が低いと考えられる。

 

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(Figure.4:本文より引用)

脳卒中においては、リシノプリルでの発生率が他の 2群に比べて高かった。心不全および心不全による入院については、クロルタリドンで僅かなベネフィットがありそう。アムロジピンとリシノプリル間の差は少ないと考えられる。ただしプライマリーではないため、あくまで仮説生成であることに注意

 

 

⌘ 考察および追加情報

①ドキサゾシン投与群については早期中止

→ ALLHAT trialは当初、α遮断薬を含めた 4群での比較だった。しかし利尿薬と比べ、α遮断薬投与群ではプライマリーエンドポイントおよび死亡率に差はなかったが、下記のリスク増加が認められたため早期中止された(平均追跡期間 3.3年)。

 脳卒中リスク:RR =1.19, 95%CI =1.01〜1.40, P=0.04

 複合 CVD(4-year rates):RR =1.25, 95%CI =1.17〜1.33, P<0.001

 CHFリスク(4-year rates):RR =2.04, 95%CI =1.79〜2.32, P<0.001

 狭心症:RR =1.16, P<0.001

 冠動脈再建術:RR =1.15, P=0.05

Major cardiovascular events in hypertensive patients randomized to doxazosin vs chlorthalidone: the antihypertensive and lipid-lowering treatment to ... - PubMed - NCBI

 

②クロルタリドンchlorthalidone(商品名:ハイグロトン、日本では販売中止)とは?

→ サイアザイド系類似薬。ノバルティス・ファーマ社から発売されていたが、2001年10月1日に製造中止が発表され、2008年に販売中止されました。

高齢者を対象とした SHEP trialでも使用されました(Prevention of stroke by antihypertensive drug treatment in older persons with isolated systolic hypertension. Final results of the Systolic Hyperte... - PubMed - NCBI)。

ちなみに N先生はノバルティス・ファーマ社に対して「ハイグロトンの販売を再開せよ」的なことをメールで伝えたそうです。行動力、すごい。

 

③薬価比較

→ ハイグロトン錠 50mg      --- 12.1円/錠(2008年10月時点:オレンジブック掲載)

 ノルバスク錠 2.5〜10 mg --- 26.7〜73.8円/錠(2017年6月時点)

 ロンゲス錠 10〜40 mg     --- 62.1〜243.0円/錠(2017年6月時点)

 カルデナリン錠 2〜8 mg  --- 51.4〜388.8円/錠(2017年6月時点)

 

 

以上、ほとんど私見ですが利尿薬のベネフィットは大きいと考えられます。大事なことなので何度も言いますが患者背景により推奨やエビデンスは表情を変えると想います。