論文至上主義をゼロから考える〜その薬の効果はどのくらい?〜

猫好きの猫になりたい薬剤師です。どう医療に関わっていくか等々、薬剤師の一人である自身の感じたこと、考え方を投稿していきます。備忘録的な役割が大きいです。本ブログの記載内容については一切の責任を負えません。原著論文を参照して下さい。また情報の二次利用につきましては各々の責任でお願いいたします。記載内容に誤りがありましたら、ご指摘いただけますと幸いです。お問い合わせはこちらまで→【noir.van13@gmail.com】

大動脈弁狭窄症患者における厳格な脂質管理は有益ですか?(SEAS trial)

ここ数年どんどん処方数が低下していると感じるエゼチミブ(商品名:ゼチーア)。

何が問題なのか?今更ですが初期のトライアルを取り上げます。

www.ncbi.nlm.nih.gov

論文タイトル:Intensive Lipid Lowering with Simvastatin and Ezetimibe in Aortic Stenosis(PMID: 18765433)

 

⌘ 背景

75 歳以上の 3〜5% は大動脈弁狭窄症を有し、冠動脈疾患や心筋梗塞による死亡リスク増加の一因であることが報告されている。重傷例では大動脈弁置換術しか治療法は無い。またスタチンによる大動脈弁狭窄症増悪に対する抑制効果は、(2008 年時点において)小規模の症例対象研究や RCT しか報告されておらず、効果も限定的であった。そこでスタチンの一つであるシンバスタチン(商品名:リポバス)とエゼチミブ併用による大動脈弁狭窄症増悪抑制効果を検証した。

 

⌘ PICO

P:心エコーで軽度~中等度の大動脈弁狭窄症と診断された 45~85 歳の男女、1873 例

(多施設:欧州 7 ヶ国、計 173 施設)

I :シンバスタチン 40mg+エゼチミブ 10mg(once daily intake)

C:プラセボ

O:複合アウトカム。

primary --- 心血管死、大動脈弁狭窄症関連イベント(大動脈弁置換術、うっ血性心不全)、非致死的心筋梗塞(MI)、入院を要するイベント(不安定狭心症心不全、CABG、PCI)、非出血性脳卒中脳梗塞

secondary --- 大動脈弁狭窄症イベント及び虚血性冠血管イベント

 

⌘ 研究デザインは?ランダム化されているか?

RCT

(一部 SAS trial という小規模かつ非公開試験からの組み入れ有り。SAS trial は MSD 社内データらしく閲覧できなかった)

 

⌘ ランダム割付が隠蔽化されているか?(selection bias は無いか?)

不明だが多施設で実施されており、中央割付であると推測できる。下記は試験デザインペーパーだが有料。

Design and baseline characteristics of the simvastatin and ezetimibe in aortic stenosis (SEAS) study. - PubMed - NCBI

 

⌘ マスキングされているか?(ブラインドか否か?)

Duble-blinded

 

⌘ プライマリーアウトカムは真か?

真だが注意点あり。複合アウトカムであり、バイアスがかかりやすい入院を要する項目がある。

 

⌘ 交絡因子は網羅的に検討されているか?

大項目で 15 因子について検討されているため問題無いと考えられる

年齢、性別、人種(白人99%)、血圧、喫煙、BMI、心房細動、房室ブロック、前立腺肥大症、腫瘍(良性/悪性/不特定)、治療薬(ACEi/ARB/CCB/BetaB/抗血小板薬/抗凝固薬/利尿薬/ジギタリス製剤)、検査値(血糖、Cre、eGFR、hs-CRP)、脂質、心エコー検査

 

⌘ Baseline は同等か?

同等である

 

⌘ ITT 解析されているか?

ITT 解析

 

⌘ 追跡期間は?

52.2 ヶ月

 

⌘ サンプルサイズは充分か?

計算されており問題ないと考えられる

The study had a power of 90% to detect a reduction of 22% in the relative risk of the primary outcome.

 

⌘ 結果

・Primary outcome (composit)

→ シンバスタチン+エゼチミブ群 333 例(35.3%) vs. プラセボ群 355 例(38.2%)で両群間に有意差なし:HR=0.96(95%CI:0.83~1.12、P=0.59)

 

・心血管死

→ 47 例(5.0%) vs. 56 例(6.0%)で有意差無し:HR=0.83(0.56~1.22、P=0.34)

 

・大動脈弁置換術

→ 267 例(28.3%) vs. 278 例(29.9%)で有意差無し:HR=1.00(0.84~1.18、P=0.97)


・大動脈弁狭窄症進展によるうっ血性心不全

→ 25 例(2.6%) vs. 23 例(2.5%)で有意差無し:HR=1.09(0.62~1.92、P=0.77)


・非致死的MI

→ 17 例(1.8%) vs. 26 例(2.8%)で有意差無し:HR=0.64(0.35~1.17、P=0.15)


・CABG

→ 69 例(7.3%) vs. 100 例(10.8%)で有意差あり:HR=0.68(0.50~0.93、P=0.02


PCI

→ 8 例(0.8%) vs. 17例(1.8%):HR=0.46で有意差無し(0.20~1.05、イベント数が少ない為 NA)


・不安定狭心症による入院

→ 5 例(0.5%) vs. 8 例(0.9%):HR=0.61で有意差無し(0.20~1.86、NA)


脳梗塞

→ 33 例(3.5%) vs. 29 例(3.1%):HR=1.12で有意差無し(0.68~1.85、P=0.65)

 

・脂質値の変化(LDL-C)

→ シンバスタチン+エゼチミブ群は、試験開始時 140mg/dL が 8 週間後には 53 mg/dL で 61.3% の低下。追跡期間全体では 53.8% の低下。一方、プラセボ群では追跡期間全体で 3.8% の低下。一応 P<0.001。

 

 

⌘ 結論および考察

エゼチミブの一次アウトカムに対する効果はかなり限定的

脂質低下作用及び CABG による入院の抑制に伴う虚血性冠血管イベント抑制は一応証明された。


シンバスタチン+エゼチミブ群では微妙な結果に加え、なんと癌と診断された患者数がプラセボ群に比べ有意に高かった(105 vs. 70、P=0.01)。

 

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 (Figure 4. 本文より引用)

 

そこで当時進行中だった SMART および IMPROVE-IT、2 つの試験を途中解析し、約 20,000 人の患者で再検討(at the section of Discussion)。結果、プラセボ群と比較し癌発生率増加は認められなかったとのことだが、リスクベネフィットの観点からは楽観視できないだろう。そりゃ処方数減るよね。

 

そうそう、日本では患者数が少ないとされている家族性高コレステロール血症(FH)患者で大動脈弁狭窄症の発症が多いことが指摘されています。また日本での診断方法に問題があり、実際はもっと FH 患者数は多いのでは? との意見もあるようです(まぁ、PCSK9 等の新しい薬があるからエゼチミブの出番は無いかもだけど)。この真偽については次回検討します。

 

さらに SMART や IMPROVE-IT についても今後読んでみようと思います。

以上です。